移民と政治メルマガ 第3号(令和8年3月9日)
「欧米での悲劇から学ぶ:ドイツ」
前回は日本の各政党の外国人政策・移民政策に関する立場を見ました。
今回は日本の移民政策の参考とするべく、欧米の移民政策の経緯や悲劇的な現状を取り上げたいと思います。
まずドイツの例です。
ドイツの国政を分断する移民問題
昨年2025年4月にハンガリーで開催されたCPAC(保守政治行動会議)に、ドイツの有力政党であるAfD(ドイツのための選択肢)の党首であるアリス・ワイデル氏が出席しました。
その会議で、ワイデル党首は移民受入の深刻な影響を訴えました。
「既成政治はドイツを国民にとって危険地帯に変えました。国民は大規模な移民流入、急増する犯罪、高い税率とエネルギー価格、インフレ、富の破壊に苦しんでいます。だからこそ旧左派、緑の党政権を退陣させたのに、同じ破滅的な道を歩み続ける政権が誕生しました。
不法移民を阻止するふりをしながら門戸を大きく開け放つ政権が誕生しました。国内問題を回避しようとする愚かな試みとして、首相は世界を飛び回り、ウクライナで見られるように紛争を煽り、ドイツ納税者の金を窓から投げ捨てています。
しかし、街中で起こる移民による暴力やイスラム過激派によるテロという日常的な恐怖に関しては、首相は沈黙を貫いています。」
ワイデル党首は、与党が国内の移民問題を解決せず、ウクライナ戦争にお金をつぎ込み、結果、ドイツ国内では移民による犯罪やテロが深刻化するとともに、財政やインフレ問題が続いていることを強く批判しています。
ドイツの国民は昨年2月に行われた総選挙に際して最も重要な課題として「移民・難民」をトップ(37%)として挙げ、次に「経済状況」(34%)をあげました。
総選挙では移民に対する厳格な政策を主張するAfDが議席を大きく伸ばし、152議席を有する第二政党となりました。
これに対し、650議席ある議会において208議席と最も多く議席を獲得した中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が、思想的には大対立するにもかかわらず、第3勢力である社会民主党(SPD)(120議席)との連立を決断し、5月にはメルツ政権が誕生したわけです。
しかしながら、メルツ首相率いる連立政権の仕事ぶりについて、国民は多いに不満であることが世論調査でわかっています。
メルツ政権が始まって約3か月経過した昨年8月にドイツのニュース専門放送局NTVが報じた世論調査では、メルツ首相の支持率は低下し、仕事ぶりに「満足」との回答は29%にとどまり、「不満」が67%に上りました。
さきほどのワイデル氏による演説のとおり、総選挙で大きな争点として挙げられた移民問題、経済問題について政府が対応できていないと国民が厳しい評価を下したと解釈してよいでしょう。
このような評価は政党支持率にも表れており、移民への厳格な対応を主張するAfDは支持率26%を取り、与党のCDU・CSUの支持率24%を上回りました。
移民受け入れが招いた悲劇:治安悪化と財政悪化
AfDのワイデル党首が批判するように、ドイツ政府は2015年以降、大量の移民を受け入れ、移民による犯罪の増加・治安の悪化、そして財政悪化を招きました。
ドイツに在住する日本人ジャーナリストは、難民の大量受け入れ政策によって、ドイツの治安が酷い状態に至り、社会保障も賄えない財政状況に至っていると指摘しています。
「23年11月に連邦検察庁が発表した統計によれば、殺人も含む暴力的犯罪の摘発の数が前年に比べて17%も増加。しかも、容疑者が外国人であるケースが23%増と高い割合を占めていた(ドイツ人の犯行は8%増)。
この増加率は外国人の増加率にほぼ比例しているという。また、公共の場での犯罪が14%増。つまり、公共の治安が急激に悪化している。」
(川口 マーン 恵美 「ドイツにイスラム帝国を樹立せよ」と主張…移民大国・ドイツでイスラム教徒への不安が広がっているワケ」『プレジデント・オンライン』2024年5月15日)
「2015年に大量の難民が入り、ドイツの出産率が上がったことは、それはそれで結構だ。ただ、実際問題として、保険料を払ったこともなく、今も払っていない大勢の人たちが、この10年以上、病院に詰めかけていたわけで、その経済的弊害が今、覆い隠せなくなっている。そして、これが保険料を押し上げ、最終的には国民の負担となる。」
(同、「移民を受け入れ続けた10年後がこれ…「医療財政がボロボロ」でも、人権国家をやめられないドイツからの警鐘」『プレジデント・オンライン』2026年3月4日)
ドイツの治安状況を示す事件は最近も続いています。日本でも大きく報じられた事件のひとつは、昨年12月のクリスマスに起きた悲劇的な事件です。
昨年12月にドイツ東部マクデブルクのクリスマスマーケット(市場)に、車が突っ込み6人が死亡、300人以上が負傷しました。
容疑者はサウジアラビア出身の医師で、2006年からドイツに居住した移民です。
同容疑者は2016年に政治難民に認定されており、過去にソーシャルメディアに無差別殺人の予告とも取れる投稿をしていました。当局が事件を未然に阻止できなかったことにドイツ国民から強い批判が集まりました。
日本の公安調査庁によると、ドイツでは2024年から2025年にかけて、中東出身者によるテロや殺傷事件が連続して起きたと報告されています。
2024年5月、ドイツ南西部・バーデン・ヴュルテンベルク州マンハイムで、アフガニスタン人の男が、イスラム主義を批判する集会の参加者らをナイフで襲撃し、警察官1人が死亡、集会参加者ら5人以上が負傷。
2024年8月、ドイツ西部・ノルトライン・ヴェストファーレン州ゾーリンゲン市で開催された市政650周年を祝うイベントで、シリア人の男が、来場者らを刃物で襲撃し、3人が死亡、8人が負傷。
2025年2月、ドイツ南東部・バイエルン州ミュンヘンで、アフガニスタン人の男が、車両で群衆に突入し、2人が死亡、37人が負傷。
2025年2月、ドイツ首都ベルリンで、シリア人の男が、ホロコーストで犠牲となったユダヤ人のための記念碑にいたスペイン人観光客を刃物で襲撃し、同観光客が負傷。
2025年5月、ドイツ西部・ノルトライン・ヴェストファーレン州ビーレフェルト市で、シリア人の男が、刃物で通行人を襲撃し、5人が負傷。ISIL支持者による犯行の可能性が指摘。
移民による治安悪化は統計的にも報告されています。
2023年のドイツの犯罪件数は594万件で前年比5・5%の増加となりましたが、外国人による件数が17.8%と顕著な伸びを示しました。
翌年2024年4月にこの統計が発表されると、当時のフェーザー内相は「流入者が非常に増加しており統合は限界に達している。難民申請をしている外国人でも犯罪を起こせば迅速に送還せねばならない」と発言しました。
また、2024年3月、公共放送ARDが報じたノルトライン・ヴェストファーレン州(人口、経済規模がドイツ16州の中で最も大きい西部の州)の犯罪統計では、外国人の犯罪容疑者数は、2021年全体の31.0%、2022年32.8%、2023年の34.9%と徐々に割合が高くなっており、また、人口当たりではドイツ人の2倍の犯罪発生率になっていることが報告されました。
メルケル政権で始まった移民の大量受け入れ
ではなぜ、ドイツでは犯罪増加・治安悪化を招くような非現実的な難民、移民の大量の受け入れを行ってきたのでしょうか。
始まりは、メルケル政権が2015年にシリア内戦による中東アフリカ地域からの難民を大量に受け入れたことから始まります。
アンゲラ・メルケル政権は、CDU保守政党による政権でしたが、メルケル自身は原発廃止、難民受け入れ、徴兵制廃止など、左派寄りの政策を採用した政治家でもあります。
アンゲラ・メルケルの父、ホルスト・カスナー は、キリスト教の教えに基づいた社会主義的な理想を抱いていたプロテスタントの牧師でしたが、西ドイツから社会主義体制をとる東ドイツへあえて移住し、東ドイツ政府と良好な関係を維持していたことから、西側の教会関係者からは「赤い牧師」と呼ばれていました。
メルケル自身も35年間、社会主義体制の東ドイツで過ごし、東ドイツの国家公認の青少年団体「自由ドイツ青年団(FDJ)」の幹部を務めていたという過去があります。
そんなメルケル首相は、シリア内戦によって発生した難民を大量に受け入れるという「人道的」判断を宣言します。
メルケル首相は当時、ドイツ国民に向かって、「我々はやり遂げられる(Wir schaffen das)」と宣言し、100万人以上の難民を受け入れました。
当時のメルケル首相が大量の移民受け入れを行った背景には、人道的な配慮に加えて、ドイツの高齢化や少子化、労働力不足があったといわれますが、いずれにせよ、その決定は右派から強く反発を招き、国論が二分しました。
メルケル首相の「大英断」によって、2015年と16年だけでドイツへの亡命申請者は合計116万人にのぼりました。申請者の大多数はシリア、アフガニスタン、イラクの出身者が占めます。
しかし、その移民受け入れを行った直後に大きな事件が発生します。
2015年の大みそかの夜、ドイツ西部ケルンで、560人以上の女性が大勢の男に取り囲まれ、股間や胸をまさぐられる性的暴行や窃盗など650件以上の被害にあうという事件が起きました。
容疑者の半数以上がアルジェリアやモロッコなどの難民だったことから、「難民を積極的に受け入れるべきだ」と考えていた人々は、1年間に約100万人の難民を受け入れることが、現実生活の中で何を意味するかを理解したわけです。
しかしながら、ドイツはその後も移民受け入れを継続し、2024年12月までドイツで登録した各国からの亡命申請者は260万人に上ると報告されています。
引き続き政治の争点となる移民問題
メルツ首相の盟友であり、キリスト教民主社会同盟(CDU・CSU)の連邦議会会派での院内総務を務めるイェンス・シュパーン氏が昨年10月に公開されたインタビューの中で、連立政権の支持率が低下し、世論調査の「厳しい」結果に直面していると警告しました。
世論調査によると、メルツ氏率いるCDU・CSUの支持率は25~27%で、AfDと拮抗しています。総選挙で第3党に転落したSPDは支持率をさらに下げ、わずか13~15%となっています。
ドイツでは今年9月に州議会選挙が予定されています。ドイツで初めてAfDが州政府を率いる可能性が出てきており、国際的にもますます注目が集まっています。
今回は、ドイツの移民流入による治安悪化と政治の動きを見てきました。
メルケル政権が始めた大量の移民受け入れは、犯罪を増加させ、テロ事件を引き起こし、財政にも悪影響を与えました。
そして、なお移民問題はドイツの選挙・政治の中心テーマのひとつとなっており、今後の国政や地方の政治で争われる問題となりそうです。
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移民と政治メルマガ 第2号(令和8年2月22日)
「外国人問題、移民政策に関する野党の立場はどうか?」
前回のメルマガでは、政府自民党の外国人の受け入れ政策、移民政策の経緯と問題点を指摘しました。
政府・自民党は2019年の特定技能制度の導入から一貫して これは「移民政策ではない」と説明してきていますが、岸田政権の下、2023年6月に無期限更新・家族帯同を認める特定技能2号を大幅に拡大したことを転換点として、実質的に移民受け入れ政策を始動し、拡大してきたと評価してよいでしょう。
人口構成という国全体に影響を与える問題にもかかわらず、国民全体での議論もなく、政府はなし崩し的に移民受け入れを進めてきました。
その結果、特定技能制度の下での在留外国人の数は2019年末時点で1千数百人程度だったものが、2025年6月時点で33万人とものすごいスピードで増えてしまいました。
それでは、自民党以外の他の政党は、外国人の受け入れ政策、移民政策についてどのような主張や公約を掲げているのでしょうか。
◆連立与党の維新は、人口戦略方針の策定と数量規制を重要視する
昨年10月に高市首相と維新との間で連立合意が成立した際、維新は自民党と以下を合意しました。
・人口減少対策本部を立ち上げ、子育て政策を含む抜本的な人口減少対策を実行
・外国人の受入れに関する数値目標や基本方針を明記した「人口戦略」をつくる
・外国人及び外国資本による土地取得の規制強化の法案を策定する
外国人問題、移民問題を国家のあり方を大きく左右する問題であり、同時に日本人の人口減少にも関わる問題であるから、まずは戦略・方針が大事だと主張しています。
また、数量規制が維新が主張するポイントのひとつです。1月9日、維新の藤田共同代表は「外国人政策の肝は量的マネジメントだ」と述べています。
また、外国人政策などに関する調査会会長を務める高橋英明衆院議員は、政府から聴取した現段階の検討内容に不満を示し「しっかり組み立てないと、日本の将来に大きな影響を与える」と記者団に強調しています。
直ちに外国人受け入れを停止すべきという強い主張ではないですが、その重要性から上限を明確に数量的に定めるべき、日本人の人口減少の課題と共に抜本的に取り組むべきというのが維新の立場です。
◆中道改革連合は、自民党よりも移民受け入れを推進する積極派
中道改革連合、いわゆる中革連は、その綱領において「多文化共生」を掲げ、「日本人と外国人が互いを尊重し、ルールを守りながら多文化共生社会を目指す」としています。
移民政策については、「外国人労働力の受け入れ拡大」、「移民政策の事実上の推進」が党の立場といってよいでしょう。
中革連の前進たる立憲民主党は、外国人労働者の受入れを前提とした制度整備や定住・共生政策に肯定的でした。また、公明党は外国人との共生社会を推進し、外国人に対する権利保障の強化を主張してきました。
中革連の野田共同代表は1月25日、「総量規制」について「時期尚早ではないか」と否定的な見解を示すとともに、「多文化共生庁」の設置も選択肢だとの認識を示しています。
◆国民民主党の外国人政策、移民政策はわかりにくい!?
玉木代表率いる国民民主党は、政策集などにおいて外国人・移民政策を独立した項目として掲げていません。
玉木代表は移民推進を否定していますが、受入れの是非や管理の在り方についての政策スタンスは必ずしも明確ではなっておらず、有権者にとってはやや判断しづらいところです。
昨年、NPOの移住連が行ったアンケートに対し、同党は、「外国人の受け入れは、その能力が存分に発揮されるよう日本語教育支援等を国が主体となって行うと共に、日本国民との協働・共生が地域社会や生活の現場においても推進されることが大前提です。」と回答しています。
移民推進には留保を付していると解釈できるでしょう。
◆参政党、日本保守党は旗手として移民推進に反対
参政党は昨年の参議院選挙で「日本人ファースト」を掲げ議席数を伸ばし躍進しました。
同党の外国人政策、移民政策はわかりやすく、外国人労働者の積極的な受入れに明確に反対しています。
また、移民政策、外国人政策に関連して主張している具体的施策は17個あります。
・外国人総合政策庁の設置と外国人受入れに関する中長期計画の確立
・出入国管理の厳格化
・外国人による不動産取得規制
・不法移民の取締り強化
・治安の悪化対策
・帰化要件の厳格化
・インバウンド・オーバーツーリズム対策
・外国人への生活保護禁止
・私学助成、留学生への奨学金問題
出入国管理、不動産取得規制のみならず、治安、帰化、生活保護、私学助成など広範囲にわたって外国人への「優遇」を是正するための具体的施策を打ち出しているのが参政党の立場のポイントでしょう。
また、同じく日本保守党も移民政策について明確かつ強く公約を掲げている政策です。
同党の基本方針として「移民政策の是正―国益を念頭に置いた政策へ」と題して、入管難民法の改正と運用の厳正化、経営・管理ビザの相手国制限、特定技能2号の家族帯同を大幅に制限、外国人への生活保護給付の見直しを掲げている。
◆共産党・社民党は移民の積極的受け入れ推進を主張
共産党、社民党は、外国人労働者の積極的な受入れ推進を主張しています。
移民受け入れの推進の極致として、定住外国人への地方参政権の付与も主張しています。
単に経済のみならず政治面でも移民、外国人を日本人と同等に扱っていくというのが同党の立場です。
共産党は、昨年年末に全国的に行われた「移民政策反対」デモが行われた際、日本共産党神奈川県委員会は独自に「差別、分断を許さない」と訴える宣伝を行い、移民政策に反対する市民に対して「レイシスト帰れ」などと抗議したと、公式HPで報告されています。
◆自民、中革連、社民、共産は移民推進。日本保守、参政は反対
総じて、各党の主張は分かれているといってよいでしょう。明確に移民受け入れ反対を主張しているのは、日本保守党、参政党のみです。
自民、中革連、社民、共産は、理由は違っても、移民受け入れ推進の立場です。
維新や国民民主はその管理を強調していますが、その方向性はあまり明確ではありません。
2月8日に行われた衆議院の総選挙においても、参政党、日本保守党などは外国人政策、移民問題を争点として訴えていました。
今後の各地の選挙や国会での議論、メディア報道やSNSにおいて移民問題がさらに議論される可能性は十分にあります。
引き続き、動向を注視していきたいと思います。
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